腹部大動脈瘤に対しては、腹部正中切開による開腹下手術が一般的ですが、高齢者や他疾患合併などによって、そうした手術の危険性が高いと予想される患者さまや、開腹手術の既往のある患者さまなどに対しては、ステントグラフトを用いた低侵襲治療が行われています。この方法では、鼠径部(足の付け根)に小切開を加えるのみで、短時間で手術を終えることができる利点があります。当院では、2013年よりステントグラフト治療を導入し、現在約7割の患者さまがこの方法で治療を受けられています。動脈瘤の形態や、患者さまの年齢・生活状況を考慮して適切な治療法を決定しています。
下肢閉塞性動脈硬化症とは動脈硬化により下肢の血流障害をきたす疾患です。症状が比較的軽度(間歇性跛行;一定の距離を歩くと、下肢が痛くなり歩けなくなるが、しばらく休むと、また歩けるようになる)の患者さまに対しては、禁煙指導、運動療法、薬物療法を行います。症状の改善が不十分な症例や重症例(安静時痛、潰瘍・壊疽)に対しては血行再建術を行います。血行再建術には血管内治療(カテーテル治療)とバイパス術などの外科手術があります。当科ではそれぞれの治療法の長所・問題点を熟知した上で、病型や患者さまの全身状態にあわせて最適な血行再建術の選択(場合によっては両者併用)を行っています。また、難易度の高い足関節周囲へのバイパス術(図1)の経験も豊富です。
わが国の透析患者さまの数は30万人を超え、そのほとんどが血液透析による治療を受けています。血液透析とは毎分約200-300mlの血液を体外に取り出し、透析器で血液をきれいにしたのち、体内に戻すという治療です。血液透析を継続的に行うためには長期間、安定して血液を取り出し、返血することを可能にするためのシステムが必要であり、これをバスキュラーアクセスといいます。バスキュラーアクセスには自己血管内シャント、人工血管内シャント、動脈表在化、カテーテル留置法などがありますが、自己血管内シャントが最も優れています。当科では毎年100名以上の透析導入予定患者さまに内シャント手術を行っています。超音波検査を中心とする術前検査を入念に行うことで、ほとんどの場合、自己血管内シャントが作製され、良好な開存率が得られています。また、内シャントは長期使用によりさまざまなトラブル(シャント狭窄・閉塞・瘤、静脈高血圧、スチール症候群など)が発生しますが、あらゆる合併症に対する治療が可能です。とくに、治療が難しいスチール症候群(透析中の手指の痛み、手指の壊死)に対する治療経験は有数です。