前立腺がんの罹患数は年々増加し、日本においても男性の部位別がん罹患数は最多となっております。特徴として、高齢になるほど増加し、初期には無症状であることが多いことが挙げられます。
前立腺がんが増加している背景として、社会の高齢化、食生活の欧米化、診断法の進歩、PSA検査の普及が挙げられます。早期に発見し、適切に治療を行えば、生命に関わる心配は少ないですが、進行している状態で発見されれば生命に関わります。
早期発見のためには、50歳を過ぎたら定期的に検診を受けることが大切です。
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
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177人 | 191人 | 202人 | 219人 | 180人 | 213人 | 212人 |
PSA測定・直腸診・超音波検査・MRIなどで前立腺がんが疑われた場合、前立腺針生検(組織検査)による確定診断が必要です。
基本的に2泊3日の入院で検査を行っています。仙骨硬膜外麻酔を行い、経会陰的に、基本的に16か所の組織採取を行います。病理組織検査は約2週間後に判明しますので、外来で結果を説明します。
前立腺針生検により前立腺がんと診断された場合、CT・骨シンチにより転移の有無を確認し、病気の広がりを診断します。
治療方法を決定するのに大事な要素となります。また、転移の無い前立腺がんの場合、PSA値、グリーソンスコア(がんの顔つき)なども治療方法の選択に大事な要素となります。
<臨床病期>
<転移の無い前立腺がんのリスク分類>
治療方法は多岐にわたっており、臨床病期・年齢・ライフスタイルによって患者様、ご家族様とともに決定していきます。
治療方法としては、1.手術療法、2.放射線療法(+内分泌療法)、3.内分泌療法、4.化学療法、5.監視療法 があります。
根治を目指すための外科的治療です。前立腺・精嚢腺を摘除し、膀胱と尿道をつなぎ合わせます。症例により、リンパ節郭清も併せて行います。
当院では2011年9月に腹腔鏡下前立腺全摘除術を導入し、2016年6月からは手術支援ロボットダヴィンチを導入、現在では、ほとんどの症例でダヴィンチによるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術を行っています。
約2週間の入院が必要となります。
合併症として、尿失禁、勃起不全が挙げられます。
また、頭低位での手術となりますので、緑内障、未破裂脳動脈瘤をお持ちの方は別の治療法を選択することになります。
当院では、基本的に三次元原体照射(3DCRT)により、1回2Gy 、計35回 70Gy の照射を行っております。現在、他施設で行われている 強度変調放射線治療(IMRT)と比較すると、総照射量が少なくなりますので、当院では内分泌療法を併用して行っております。これまでは、中リスク以上で計3年間の内分泌療法の併用を行い、治療成績は非常に良いものとなっております。
これからは、放射線治療科医師と緊密に連携し、放射線照射中に照射野内の放射線の強さに強弱をつけ、腫瘍に対して集中的に照射を行うことができるIMRTの導入も検討しております。
また、組織内照射療法(密封小線源療法)、重粒子線治療を希望される場合は、適宜施行施設へ紹介可能です。
前立腺がんには、精巣や副腎から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)の刺激で病気が進行する性質があります。内分泌療法は、アンドロゲンの分泌や働きを妨げる薬によって前立腺がんの勢いを抑える治療です。内分泌療法は手術や放射線治療を行うことが難しい場合や、放射線治療の前あるいは後、がんがほかの臓器に転移した場合などに行われます。
基本的に前立腺がんを抑える治療となりますので、根治を目指す治療ではありません。
治療としては、基本的には、精巣より男性ホルモンを出ないようにする(除睾術、LH-RH アゴニスト(リュープリン、ゾラデックス:皮下注)、LH-RHアンタゴニスト(ゴナックス注)、男性ホルモンの働きを抑える(ビカルタミド、フルタミド:内服)両方を組み合わせる(MAB・CAB)ことで、完全に男性ホルモンが前立腺がんに作用しないようにします。
内分泌療法は、ほとんどの方に効果がありますが、次第に効果がなくなってくること(去勢抵抗性前立腺がん;CRPC)があります。
CRPCとなった場合、内服薬の変更や化学療法の導入を検討します。近年、この領域における治療進歩が著しく、新しく使用できる薬剤も増えてきております。当院はがんゲノム医療連携病院としての機能を有しており、遺伝子パネル検査を行うことができます。遺伝子パネル検査結果に基づいた薬物治療(PARP阻害剤;オラパリブなど)も積極的に行っております。
転移のある前立腺がんで、CRPCとなった場合に使用します。
当院では、ドセタキセル、カバジタキセルによる化学療法を行っています。
前立腺がんと診断されたが、すぐに治療を開始しなくても急激な進行が見られないと予想される低リスク群の患者様に対し、3-6ヶ月毎にPSA値を測定、場合によっては生検をおこない、病状が進行した時点で治療を開始する方法です。
<当院での前立腺がん治療実績>
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | |
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手術療法 | 67 | 61 | 70 | 77 | 75 | 97 | 85 |
放射線療法 | 17 | 22 | 22 | 33 | 21 | 31 | 23 |
内分泌療法単独(新規) | 83 | 77 | 78 | 82 | 66 | 91 | 54 |
化学療法(再発例に対して) | 28 | 34 | 32 | 34 | 40 | 28 | 30 |
当院では、2016年6月に手術支援ロボットダヴィンチSi が導入され、2022年1月までに453名の患者様に手術を行いました。
ロボット手術の利点として、
ことが挙げられます。
従来の開腹手術では、出血量が多く、輸血が必要となることも多かったことから自己血貯血が必要でしたが、自己血貯血を行わなくても輸血が必要となることはほとんどなくなりました。
開腹手術だけでなく、腹腔鏡下手術と比較しても、手術時間の短縮、出血量の減少、尿道カテーテル留置期間の短縮、尿失禁の回復が早い等患者様にとってメリットが大きいです。