腎臓は、腰の上の背中側に左右1つずつある握り拳大の臓器です。
主な働きは、血液を濾過して老廃物や塩分を体外に排出するための尿を作っています。
また、心臓から拍出される血液の1/5が腎に流入しており、血流量が最も多い臓器です。
腎実質から発生する腫瘍を腎がんといいます。
腎がんの発生頻度は人口10万人当たり20人程度です。30歳台後半から腎がん発生を認め、65-75歳が最も罹患率が高くなっています。また、女性と比較し男性で罹患数が多くなっています。
腎がんの発生に環境的因子との関連が報告されており、喫煙や肥満により発症リスクが上昇する可能性がある、と考えられています。また、遺伝因子としてvon Hippel-Lindau腫瘍抑制遺伝子やBirt-Hogg-Dube腫瘍抑制遺伝子の変異により発症リスクが上昇すると報告されています。
腎がんは初期には症状はありませんが、進行すると血尿、側腹部痛、腹部腫瘤触知、不明熱などが出現します。また、転移が生じると、その臓器に応じた様々な症状が出現します。転移臓器としては肺が最も多く、他に骨・リンパ節・脳・肝・皮膚などがあります。
現在早期発見に有効な腫瘍マーカーはありません。
また、前述のように早期には症状がないため、早期発見には健康診断による腹部超音波検査が最も有効です。40歳からは2年に1度程度の定期検査が望ましいとされています。
確定診断には、造影CTが第一選択です。造影剤が使用できない場合や、造影CTでも確定診断が困難な時には、MRI検査を追加します。
また、転移や再発を疑う際にはPET-CT検査を追加で行うこともあります。
<超音波画像例>
<造影CT画像例>
腎がん取り扱い規約2011年、改
腎がんも他の癌と同じく進行程度によりⅠ~Ⅳ期に病期分類されています。Ⅰ期、Ⅱ期は腎に腫瘍が限局している状態、Ⅲ期は腎周囲脂肪や腎血管内へ浸潤をしている状態、Ⅳ期は腎外臓器への浸潤や転移をしている状態、を表しています。Ⅰ期では予後が良いですが、腎外臓器へ浸潤しているⅣ期では予後が悪くなっています。しかし、これらのデータは数年前の報告であり、近年登場した免疫治療が導入される前のデータであるため、現在は予後改善が期待されています。
それぞれの病期分類により、治療アルゴリズムが下記のようにガイドラインで示されています。
腎癌診療ガイドライン2017年 改
腎がん治療の第一選択は手術です。転移を有している場合においても、転移巣も含め手術で完全に切除できれば予後は良好です。また、局所進行癌に対し手術前に薬物治療を先行することの有用性が近年報告されており、当院でも行っています。なお、転移を有しており転移巣が摘除不能な場合においても、進行が緩徐であり、全身状態が良好な場合では、原発の腎がんのみを摘除することで予後が改善するため、腎摘除術を行うことがあります。
手術の術式には、①腎を全て摘除する腎摘除術、②腫瘍のみを切除する腎部分切除術、があります。腫瘍の病期、腫瘍の位置、患者様の体力、抗凝固剤内服の有無、対側の腎機能、などの情報を考慮し手術方法を決定しますが、腎機能温存の観点から腎部分切除を選択することが増えてきています。しかし、残存腎からの再発の可能性もあり、全ての腎がんに選択される訳ではありません。手術適応については主治医と十分にご相談ください。
手術方法には、①腹腔鏡手術、②開腹手術、があります。腹腔鏡手術の方が、侵襲が少なく、術中出血量が少なく、術後回復が早いとの利点がありますが、手術時間がかかる、癒着剥離が困難、出血した際の止血操作が困難、などの欠点があるため、それぞれの状態に応じて手術方法を決定します。また、2017年から腎部分切除術に対してロボットアシスト手術が保険適応となりました。従来の腹腔鏡手術で部分切除が困難であった腫瘍に対しても、ロボットアシスト手術では部分切除が可能となったことで、開腹手術や腎摘除術を行う割合がさらに減少傾向になっています。
下記に当院の手術実績を示します。
術式として、腎部分切除術を選択する割合が増加してきています。
また、腎摘除術における手術方法を下記に示します。
腹腔鏡下にて手術可能であることが多いですが、stageⅡ以上の局所進行がんにおいては開腹手術が必要となることがあります。
最後に、腎部分切除術における手術方法を下記に示します。
近年では、ほとんどの症例でロボットアシスト腎部分切除術を行っています。
手術不能な病変に対しては、薬物治療を行うこととなります。
また、前述のように手術前に術前治療として薬物治療を行うことがあります。
下に、日本で保険収載された年次毎の腎がん治療薬を示します。
2016年以降、多数の免疫療法剤が保険適応となっています。
<腎がん治療薬の年次推移>
腎がんの薬物治療として、大きく以下の4種類に分けられます。
2022年の現在、2.と4.による治療がメインとなってきており、当院もこれらの薬物治療を積極的に使用しています。
また、腎がんは予後によりリスク分類がなされており、現在は2009年に提唱されたIMDC分類によるリスク分類が主に用いられています。(下記)
それぞれのリスク分類に基づき、使用できる薬剤は保険制度にて決められています
当2022年2月現在、免疫治療薬の組み合わせ治療(ニボルマブ+イピリムマブ)や免疫治療薬と分子標的薬の組み合わせ治療(ペムブロリズマブ+アキシチニブ、アベルマブ+アキシチニブ、ニボルマブ+カボザンチニブ)などの多剤併用療法がメインとなっています。しかし、転移部位、がんの進行速度、治療薬剤の副作用、併存疾患(もともと持っている病気)などを考慮し、患者様個々に最も良い治療法を選択する必要があります。そのため、単剤による治療をお勧めすることもあります。
なお、多数の治験が進行中であり、日本で保険認可され使用できる薬剤は今後も増えていく見込みです。今現在使用可能な薬剤について主治医と相談のうえ、治療薬剤を選択するようにして下さい。