■大腸がんについて
大腸がんは、大腸(結腸・直腸・肛門)に発生するがんで、腺腫という良性のポリープががん化して発生するものと、正常な粘膜から直接発生するものがあります。日本人ではS状結腸と直腸にがんができやすいといわれています。
大腸の粘膜に発生した大腸がんは次第に大腸の壁に深く侵入し、やがて大腸の壁の外まで広がり腹腔内に散らばったり、あるいは、大腸の壁の中のリンパ液や血液の流れに乗って、リンパ節や肝臓、肺など別の臓器に転移したりします。
■大腸がんの治療について
腸がんの主な治療法には、内視鏡治療、手術治療、化学療法、放射線療法などがあります。これらを組み合わせ、どのように治療するのかは、患者さまの状態や、がんの進行度などによって決められます。
当院消化器外科では、年間に約220例の大腸がん手術を行っています。開腹手術に比べて、より低侵襲な(患者さまにとってダメージの少ない)手術に力をいれており、大腸癌手術の約90%の症例に対して腹腔鏡手術を行っています。創は3〜5cmと小さく、傷の痛みも軽度で、術後の回復が開腹手術よりも早く、早期の社会復帰が可能となります。
近年、さらなる低侵襲(より術後のダメージが少ない)手術を目指して、結腸癌に対しては最先端の単孔式内視鏡手術も行っています。術後の傷跡は、臍の中に隠れるためほとんど目立たなくなり、低侵襲性に加えて整容性(見た目の美しさ)においても患者さまの満足度が非常に高い手術です。
一方、直腸癌に対しては、がんの根治性・肛門温存・自律神経の機能温存をさらに追及するために、ロボット手術・括約筋間直腸切除術(Intersphincteric resection, ISR)・経肛門的低侵襲手術(Transanal minimally invasive surgery, TAMIS)・経肛門的直腸間膜切除術(Transanal total mesorectal excision,TaTME)などの最先端の治療方法も積極的に行っています。上記の様々な手術の中から、個々の患者さまにとって常に最善な治療方法を提供します。
2018年4月、直腸がんに対するロボット手術が保険適用となりました。ダヴィンチ・サージカルシステム(以下ダヴィンチ)を使用したロボット手術は、これまで技術的に難しいと言われていた直腸がんに対する腹腔鏡下手術の欠点を補い、精密な手術ができるとして期待されています。3Dのフルハイビジョン画像で、約10倍に拡大することができるカメラ(腹腔鏡)を使用することで、手術部位の細かな解剖まで分かりやすくなりました。ダヴィンチ専用の鉗子(かんし)は、人間の手以上によく曲がり(多関節機能)、手ぶれしない鉗子を使用するため、狭くて深い骨盤の中でも、正確で繊細な手術が行えるとして期待されています。
“単孔式”とは、字のごとく、ひとつの孔を腹部に開けて行う手術の方法です。一般的には、臍(へそ)部を2-3cm程度切開して、手術用具を挿入しやすくするポートとよばれる器具を装着し、その傷のみで手術します。通常の腹腔鏡手術では4-5か所の小さな傷を使って手術をしますが、単孔式の手術では傷は原則一つだけです。この手技は非常に高度の技術を必要とし、普通の病院では中々できません。当科には単孔式手術のエキスパートが複数在籍しており、より低侵襲で体に優しく、更に大腸切除やリンパ節郭清手技の技術を高め、多くの患者さまに、より安全で、より確実にこの術式を受けて貰えるようになっています。
当科では、大腸疾患と鼠経ヘルニアに対する外科治療として行っています。
図1:通常の腹腔鏡下手術:お臍の小さな切開と数か所の傷が残ります。
図2:単孔式腹腔鏡下大腸切除術:お臍だけの傷ですので、傷跡が分からなくなります。「本当に手術したの?」と聞かれる患者さまもいらっしゃるようです。
肛門の近くの直腸がんに対して行う手術です。当院では積極的に行っています。
括約筋間直腸切除術は「究極の肛門温存手術」と言われることもあります。これまで永久人工肛門を造設せざるを得なかった直腸 がんの患者さまが永久人工肛門を回避できるようになった優れた術式です。ただし、おしりを「しめる 」ための括約筋の一部を切除することになりますので、手術後に、排便回数が多くなる。おなかが緩い時には少し便漏れがあるなどの症状がでることもあります、しかし、術後、時間の経過とともに肛門の 機能は次第に改善する傾向があります。
早期の直腸がんの患者さまに対して行う手術です。症例によっては、直腸を切除することなく肛門温存が可能となります。患者さまのQOLばかりでなく治療成績も非常に良好です。TAMISを施行した後の病理検査の結果次第では、化学放射線療法を追加したり、根治的な直腸切除術を行うこともあります。
TaTMEとは、肛門側から直腸と直腸間膜を切除する手術です。骨盤の狭い男性、肥満症例、腫瘍が大きい症例などでは骨盤深部の操作難易度が高くなります。その解決方法の一つとして、TaTMEは近年注目されている術式です。肛門側から操作を行うことで、腹腔側からでは難しい骨盤深部の剥離を、より適切な剥離層を保ちながら行うことが可能となります。