細菌感染、ウイルス感染、アレルギー体質などにより発症する副鼻腔における炎症で、症状としては、鼻漏、後鼻漏、鼻閉、嗅覚障害を訴え、鼻内に鼻ポリープの合併を多くの症例で認めます。治療としては、マクロライド系抗生剤による保存的治療により改善しない場合に、内視鏡下鼻副鼻腔手術を行っています。鼻副鼻腔は解剖学的に非常に複雑ですが、我々は術前にCTに基づいて副鼻腔を3D再構成し、安全に手術を行っています。
図:3D再構成による副鼻腔
■前頭洞疾患に関して:
前頭洞といわれている目の上の副鼻腔は内視鏡手術は困難で、顔を切る手術がいまだに広く行われています。これに対して前頭洞を大きく開放する前頭洞単洞化手術(Draf type 3; endoscopic modified Lothrop procedure)が同疾患に有効であると報告されていますが、難しい手術です。我々は、鼻中隔を指標として両前頭洞に到達する方法を主に行っており、その安全性を確認しました(Nishiike S, et al. Indian J Otolaryngol Head Neck Surg 67: 287–291, 2015)。
図A:両前頭洞(黄色矢印)に副鼻腔炎が存在する。図B:前頭洞単洞化手術(Draf type 3)後。両側の前頭洞は一つの空洞になり、副鼻腔炎は治癒している。(西池季隆、他.日鼻誌 47: 126-130, 2008より改変して引用。)
ハウスダスト、ダニ、スギ花粉に対するアレルギー性鼻炎を有する症例で、薬物療法、減感作療法などの保存的治療により効果を認めない場合、レーザーによる下鼻甲介焼灼術、後鼻神経切断術などを内視鏡下に行っています。
図:アレルギー性鼻炎に対する手術。後鼻神経を含む索状物(青矢印)が観察される。
鼻の真ん中に位置する鼻中隔が左右いずれかに突出しているために鼻閉をはじめとした症状が出現します。鼻中隔鼻中隔矯正術は、鼻閉に対する手術として最も広く行われている手術です。従来では、鼻中隔矯正術として鼻中隔軟骨の多くを切除する手術が広く用いられていた。我々は、鼻中隔矯正の方法として、必要最低限の侵襲による鼻中隔の部分切除と残存する軟骨の移動による矯正を行ってきました。この方法の患者満足度に対する効果を検討したところ、非常に良好な成績であったことを報告しました。
図左:通常の鼻中隔中術。図右:鼻中隔部分切除術。(西池季隆、他.第48回日本鼻科学会、松江(10/1-3)、2009。)
眼窩吹き抜け骨折には眼窩内側壁や、眼窩下壁の骨折があります。眼窩下壁骨折では、まつげや下のまぶたを切るアプローチが広く行われていますが、顔に傷が残ります。一方で、鼻内によるアプローチでは下壁の骨折を作り直すことが難しいです。我々は、内視鏡下に眼窩底を再建する方法を開発しました(図3:Nishiike et al., Arch Otolaryngol 131: 911-915, 2005)。
図:我々の行っている眼窩吹き抜け骨折(眼窩底骨折)整復術。(Nishiike S, et al. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 131: 911-915, 2005から改変して引用。)
図:吹き抜け骨折手術前後のCT画像。左図:眼窩底に骨折あり。右図:整復後。
涙嚢や鼻涙管の感染または外傷や手術の損傷によって起こります。流涙や眼脂(がんし:めやに)を認めます。手術による治療として涙嚢鼻腔吻合術という手術がありますが、鼻外法、鼻内法があります。当科では顔面に傷を残さない鼻内法を行っており、内視鏡を用いて手術をしています。我々は、一般的なヌンチャク型シリコンチューブを用いた手術に比べて、より侵襲の少ないTシート留置術という我々のグループが開発した手術法を行っています(西池季隆、他.日鼻誌 55: 524-527, 2016)。
図:涙嚢鼻腔吻合術。左図:涙嚢の切開により、膿が排出している。右図:T型シートの挿入。
内視鏡下鼻副鼻腔手術は多くの鼻副鼻腔腫瘍にも適応が行われてきています。
鼻副鼻腔内反性乳頭腫は良性腫瘍ですが、再発率が高く、悪性腫瘍の合併および悪性変化の可能性があります。我々はこの腫瘍に対して以前から内視鏡下鼻副鼻腔手術を積極的に導入しています(津田 他、.耳鼻臨床 104: 427-433, 2011)。鼻腔内軟骨肉腫や若年性血管線維腫などの疾患に対しても内視鏡手術をおこなっています。
図:鼻副鼻腔乳頭腫。左図:鼻腔に充満する乳頭腫。右図:術後。乳頭腫は切除された。
図:血管造影で強く造影される若年性鼻咽腔血管線維腫(黄色矢印)。出血性の腫瘍である。(西池季隆、他.日耳鼻 115: 965-970, 2012から改変して引用。)