ある日突然、どちらかの耳がまったくあるいはかなりの程度聞こえなくなる病気です。耳鳴りやめまいが同時におこることもあります。原因はわかっていませんが、ストレスや疲労がこの病気の引き金となり、聞こえの神経に栄養が行き渡らなくなることで生じるといわれています。聞こえの程度は軽度難聴から高度難聴までさまざまです。この病気は手当てが早いほど、難聴の程度が軽いほど治りが良いようです。めまいを伴う場合は少し治りが悪いようです。聞こえの神経にダメージがおよぶこの難聴を「感音難聴」といい、手術では治すことができません。
治療は入院安静が一番です。そしてステロイド点滴・内服治療を行います。耳の聞こえが悪くなってから少なくとも2週間以内、できれば1週間以内、とにかく1日でも早くに上記の治療を開始する必要があります。発症から1ヶ月以上経過したものでは、当科のデータでは治療効果が認められませんでしたので、当科での治療は基本的に治療はお断りしています。
当院では何らかの原因で両方の耳の聞こえが非常に悪くなった患者様に、人工臓器である人工内耳を埋め込む手術を行っています。この手術はどこででもできるわけではなく、耳の手術を盛んに行いかつ手術後にリハビリを行う言語聴覚士が揃っている施設でしかできません。また、この手術は誰でも受けられるというわけではなく、片方の耳だけが悪い人や補聴器である程度聞こえる人は手術を受けることができません。
人工内耳埋込術は具合の悪くなった内耳の蝸牛に電極を挿入することで、音刺激が直接聞こえの神経を刺激するように調節する手術です。両耳が聞こえなくなってから長年が過ぎますと音刺激を感じる脳の場所が退化するので、なるべく聞こえなくなってから時間が経たないうちに手術を受けた方が良いといえます。
左図:人工内耳のデバイス。右図:蝸牛への人工内耳の電極の挿入。
鼻をかんだり、力んだり、飛行機の離着陸、ダイビングなどをきっかけにして突然起こる難聴、耳鳴り、めまいです。内耳の骨あるいは卵円窓、正円窓に穴が開いており、そこからリンパが洩れることが原因です。突発性難聴に準じた治療を行い、難聴が進行するときには、鼓室試験開放という手術でリンパが漏れているのを確認し、開いた穴をふさぎます。
図:CTで診断された外リンパ漏。内耳のリンパが漏れたために内耳に空気(青色矢印)がはいっている。内耳気腫(pneumolabyrinth)といわれる状態。(Nishiike S, et al. J Laryngol Otol 122: 419-21, 2008から改変して引用。)
中耳や鼻腔の中の頭蓋底といわれる部分に穴があいており、そこから脳の髄液が漏れてくる状態です。そのため水のような鼻汁がでることがあります。また頭痛やめまいが起こります。髄膜炎などの重い合併症がでることがあります。髄液漏の穴は1週間ほどで自然に閉鎖する可能性がありますが、そうでない場合には手術的にその場所を確認して閉鎖する必要があります。当科では、耳の手術アプローチや鼻の手術アプローチをまず使用して、困難な場合には脳外科と共同して頭蓋を開ける等のアプローチで髄液漏を閉鎖します。
図:中頭蓋窩アプローチによる髄液漏閉鎖術。中耳に落ち込んだ脳組織(黄色矢印)も同時に整復している。(Nishiike S, et al. Acta Otolaryngol 125: 902-905, 2005から改変して引用。)
メニエール病は突然、めまいと難聴を引きおこし、その後何回も繰り返す病気です。睡眠不足や過労等のストレスによって誘発されると言われています。本来内耳には一定量のリンパ液が貯まっているわけですが、ストレスを受けると水膨れをおこします。そのような内耳にとって悪い環境が続くと、三半規管がダメージを受けめまいが、蝸牛がダメージを受け耳鳴・難聴が生じます。
治療は内耳のリンパ液の調節を主体に行っていきます。まず利尿剤を使用したり、同様の作用がある漢方薬を使用したりします。場合によってはステロイドを使用することもあります。飲み薬でなかなかうまく治療できないときには、入院・全身麻酔で「内リンパ嚢開放術」という手術を行います。これは内耳の一番安全な「内リンパ嚢」という場所を切開して、貯まりすぎたリンパ液のはけ口を作ってあげる手術です。
良性発作性頭位めまい症は頭を動かし一定の位置をとらせる、すなわち寝起きや寝返りの動作に伴って数分程度の一過性におこる病気で、一般にBPPVと呼ばれています。めまい患者さまの約半数がBPPVだと言われています。BPPVは重力を感じるために誰でも耳の奥に持っている耳石が何らかの原因ではがれ、回転を感じる三半規管の中に迷い込むことでおこります。
治療法は、耳石は内耳で作られては消え、遅くとも1ヶ月で新陳代謝します。したがって、あまり急激に頭を動かさないようにして、めまい止め吐き気止めの薬で対処していれば、遅くとも1ヶ月でBPPVは自然治癒します。しかしながら、中には頭部運動時の不快なめまい感がなかなか取れない場合があります。その場合には、頭部をいろいろな方向に動かすことにより耳石を元あった場所に戻す「エプリー法」や「レンパート法」というリハビリ治療が行われます。それでも治癒しない場合には、耳石と三半規管との間の通路を骨片や肉片で遮断する「半規管遮断術」という手術治療が行われます。