冠動脈疾患に対する手術
冠動脈疾患に対する治療の方法は、大きく分けて、薬物治療、カテーテルによる治療、外科治療(冠動脈バイパス術、僧帽弁形成術や左室形成術など)があります。治療はこれら3つを組み合わせて行います。治療方針は、各治療の危険性、成績等を考慮し、患者さまにとって最も良い治療法を循環器内科と検討して決定しています。冠動脈バイパス手術では、心拍動下冠動脈バイパス術を標準術式としています。患者の高齢化、合併疾患、病変の複雑さや、長期開存率(バイパス手術の質の高さ)も考慮し、従来の人工心肺を用いた、心拍動下冠動脈バイパス術も行っています。グラフトは内胸動脈、橈骨動脈や大伏在静脈を使用しています。冠動脈疾患の合併頻度が高い慢性透析の患者様においても、腎臓内科と連携によりスムーズな受け入れおよび適切な術後透析管理を行っています。
心臓弁膜症に対する手術
僧帽弁弁膜症に対しては、遠隔成績が優れ、ワーファリンの長期服用が不要な自己弁温存術式(弁形成術)を第一選択とし、良好な成績をおさめています。僧帽弁における感染性心内膜炎に対しても、できるだけ弁形成術を施行しています。大動脈弁狭窄症は、80歳を越える高齢者の患者様も稀ではありませんが、生体弁を用いた通常の大動脈弁置換術により、ワーファリンの長期服用が不要で、QOLの高い生活に復帰されています。また、2017年より、通常の手術ではリスクが高い患者に対しては、循環器内科など多職種ともチーム(ハートチーム)を組み、チーム内で治療法を相談したうえで、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR, あるいはTAVI)を行うようにしています。
大動脈の疾患に対する手術:大動脈瘤手術
従来成績不良とされていた弓部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤に対して、根治性が高く、安全な当院オリジナルの手術術式を開発し、良好な成績をおさめています。
弓部大動脈瘤の手術において、最大の問題点である術中脳梗塞の予防のための安全な術式を開発し、良好な成績が得られています。初回手術では、弓部分枝再建用に4分枝付の長い人工血管を用い選択的脳灌流下に上行弓部置換手術を行い、大動脈弓部に手術操作を加えることなく、人工血管を瘤内に通して下行大動脈に吹き流します(エレファントトランク法)。本術式は、弓部動脈瘤内の粥状腫(動脈硬化のためにできた血管内のゴミ)や血栓に手が加わらず脳梗塞を予防するとともに、弓部大動脈に操作が及ばないため、横隔神経、反回神経(発声や嚥下に関わる神経)の温存にきわめて有用です。術後にCT検査を行い、必要であれば、二期手術を行います。この二期手術では、ステントグラフトを用いて治療が可能で、短時間で手術が終了でき、合併症も少なく低侵襲です。
胸腹部大動脈瘤においては、脊髄・腹部臓器冷却灌流法を併用し、術中の最大の問題点である脊髄麻痺、腹部臓器不全の予防につとめています。また、最近では、胸腹部大動脈瘤に対して、ハイブリッド手術(ステントグラフト内挿術および腹部分枝動脈へのバイパス術)を行うことで、リスクの高い患者や高齢者に対しても、侵襲の少ない治療をおこなっています。
大動脈の疾患に対する手術:大動脈解離(急性大動脈解離、慢性大動脈解離)の手術
大動脈解離に対しては、CT検査で大動脈のさけている部分や大きさ、臓器の灌流など正確に診断し、救命を第一に治療方法を選択します。治療方法には、入院安静にして血圧を安定させる治療、人工血管置換術(上行大動脈人工血管置換術、上行・弓部大動脈人工血管置換術など)、ステントグラフト内挿術、およびそれらを組み合わせる治療法があります。
大動脈の疾患に対する手術:大動脈瘤に対するステントグラフト治療
腹部大動脈瘤に対しては、腹部正中切開による開腹下手術が一般的ですが、高齢者や他疾患合併などによって、そうした手術の危険性が高いと予想される患者様や、開腹手術の既往のある患者様などに対しては、ステントグラフトを用いた低侵襲治療が開発されています。この方法では、鼠径部(足の付け根)に小切開を加えるのみで、短時間で手術を終えることができる利点があります。当院でも、2013年より腹部大動脈瘤に対し、ステントグラフト治療を開始いたしました。
また、胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療も開発されており、当院でも一部の胸部大動脈瘤に対して、2014年よりこの治療法を開始いたしました。
不整脈に対する手術
心房細動・心房粗動などの不整脈は脳梗塞の原因になることが知られていますが、当科では高周波焼灼装置や凍結装置を用いてこれらの根治術を行っています。また、左心房内で血栓がたまりやすい左心耳の入口部を閉じて血栓がたまらないようにする手術も同時に行っています。
その他、心臓血管外科で扱う疾患に対する手術
重篤な虚血性心筋症に対する左室縮小形成術(ドール氏手術 あるいは オーバーラッピング型手術)、拡張型心筋症に対する弁輪形成術あるいは両弁尖の弁下組織温存の僧帽弁置換術を積極的に行っており、良好な成績をおさめています。また心臓を切開せず外側から左室を縮小形成する安全な術式を考案し応用しています。
単に延命できるだけでなく、心不全で寝たきりであった患者さまが、通常日常生活や職場復帰が可能となるなど、QOLの改善を目指して取り組んでいます。また外科的、内科的治療によっても入退院を繰り返すような末期的重症心不全に対しては、大阪大学との連携により、補助人工心臓、細胞移植等による再生医療、心臓移植といった最先端の治療が可能となっています。