私達が生きていくためには、体の中のあらゆる部分(腎臓、肝臓、消化管等全ての臓器や四肢の筋肉等全て)に十分な酸素と栄養が行きわたることが必要です。心臓はポンプの働きで血液を全身に送っており、血液により酸素と栄養を各臓器に運んでいます。心不全とはさまざまな心臓疾患により心臓のポンプ機能が低下したり、心臓以外の原因で心臓の働きが不十分になったり、全身の体組織の代謝に見合う十分な血液を供給できない状態を示す症候群名です。
心臓の場合、そのポンプ機能が低下すると、血液を各臓器に「送り出す」機能が落ちることによりおこる症状と、血液を各臓器から「受け取る」機能の低下によって、心臓の後方でうっ滞が起るためにでる症状があります。
ポンプの出力が低下して、体の各部分に血液を十分送り込めなくなるために、「息切れ」、「疲れやすい」などの症状が起こります。尿をつくる腎臓への血流も減るため尿量が少なくなり、体に水分がたまって「体重が増加」します。
この症状は、臓器に水分(血液)がたまることによって起ります。
■左心不全:肺から心臓の左側部分に流れてくる血液がうっ滞することにより肺の内部に水分がしみだし血液のガス交換がうまくいかなくなり「息苦しさ」が生じます。重症の人は、横になっていても息切れが起りますが、これは重力によってより多くの水分が肺の内部に移動するためです。そのため、よく起き上がって、あえいだりします。これを発作性夜間呼吸困難といいます。座ることで体液の一部が肺の底部に流れ出るため、呼吸が楽になるからです。
■右心不全:全身から心臓の右側部分に戻ってくる血液がうっ滞すると、体の各部分に水分がたまり、「むくみ」が生じたり(特に足の甲やすね)、肝臓にたまると肝障害が起り消化管がむくむことも加わり「吐き気」や「食欲低下」も出現します。
胸部X線検査で心臓の拡大と肺の水分のたまり具合を、また、心電図で心臓発作の最中か不整脈の有無などを確認します。さらに、心臓超音波検査(心エコー)という超音波を使って心臓の画像を描き出す検査を行ない、心臓が正常に収縮しているか、心臓の弁や心臓の機能がどのような状態かなどを調べます。原因となる病気の種類などに応じて、核医学検査や心臓カテーテル検査という検査を行なうこともあります。当院は上記すべての検査に精通しており、特に心エコーでは全国有数の施設となっております。
急性心不全の時は、入院して安静を保ち、酸素吸入を行ったり、一時的に心臓の働きを強める薬を使いより安定した状態を目指すことが第一優先です。一方、慢性心不全では、心臓に対しては急性心不全の治療に用いる心臓の働きを強める薬は使用せず、逆に過度な刺激から守る薬を用います。心不全は病名(病気)ではなく症候名(病気でおきた結果、状態)ですから、心不全の治療は、①心不全の状態を安定させる全般的な治療と②原因疾患に対するより個別的な治療に分けられます。
状態を改善する治療法は、最近、非常に進歩しました。生活スタイルの改善(運動量の調節、体重の調整、塩分制限、水分制限、禁煙指導)は非常に大切です。薬物療法には体のむくみや肺の水分のたまりを改善する利尿薬が使用され、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬等の血圧の上昇にかかわるホルモンであるアンジオテンシンIIとアルドステロンを抑制する薬剤は症状軽減と寿命の延長も可能です。β遮断薬は心拍数を遅くして、心臓の収縮力を抑制させる薬です。20年以上前には心不全を有する方に使用することは禁止されていました。その後、心臓の働きを改善し、寿命を延ばす効果があることが分かってきました。しかし、使い始めや増量時には症状を悪化させる可能性があるので専門医による判断が必要です。
後者の原因疾患の治療には狭心症や心筋梗塞に対するカテーテル治療(風船治療やステント治療)や冠動脈バイパス術を施行し、不整脈が原因の場合にはアブレーション治療やペースメーカー治療を施行するということもあります。当院では経皮的冠動脈形成術(PCI)、アブレーション治療、心臓再同期療法(CRT CRT-D)、いずれにおいても多くの臨床経験を有し、積極的に施行しています
心臓には血液の流れを滞らせずに一方向に保つために4つの弁があり、この弁の働きが悪くなった状態を「心臓弁膜症」と呼びます。開きが悪く血液が通過しにくくなった状態を「狭窄症」、閉じが悪く血液が逆流してしまう状態を「閉鎖不全症(逆流症)」と呼びます。
心臓は全身に血液を送り出すポンプですが、血液の流れが一方通行となるように、心臓には4つの部屋があり、それぞれにドアの役割を果たす弁がついています。
この4つの弁に障害が起き、本来の役割を果たせなくなった状態が「心臓弁膜症」です。
心臓弁膜症には大きく2つのタイプがあり、1つは弁の開きが悪くなって血液の流れが妨げられる「狭窄症」、もう1つが弁の閉じ方が不完全なため血液が逆流する「閉鎖不全症症(逆流症)」です。
動悸や息切れ、倦怠感(疲れやすさ)、時に胸痛を来します。
弁膜症の症状はじわじわ進行するため、加齢による体力の低下にも似た部分があり見過ごされがちですが、病状が進行すると心不全や不整脈、感染性心内膜炎の原因となります。
聴診、心エコー図検査、心臓CT検査などがありますが、まずは聴診で心臓弁膜症を疑うことが重要となります。
弁膜症は治療時期が重要であり、診断されてすぐに治療が必要な場合と、しばらく薬などの内科的治療で様子をみる場合があります。ただし、弁膜症を治す薬はないため、根治するためには外科的治療やカテーテル治療が必要になります。治療法は患者さまそれぞれの状態に合わせて最適な治療が選択されます。
開胸して弁の悪い部分を修復する弁形成術と、弁そのものを人工弁に換える弁置換術があります。人工弁には生体弁と機械弁の2種類があります。
大動脈弁狭窄症に対しては、開胸せずにカテーテルという細い道具を使って弁治療を行うカテーテル治療、経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI/TAVR)があります。
(TAVI/TAVR特設サイトへ)
カテーテル治療は最近大きく進歩している分野であり、この他にも施行可能なカテーテル治療があります。
弁膜症でお悩みの方、あるいは弁膜症が気になる方は一度受診をご検討ください。
僧帽弁逆流とも呼ばれ、僧帽弁の閉まりが悪くなり、左心室から左心房へ血流が逆流する病気です。左心房に負担がかかり、ときに心房細動と呼ばれる不整脈を合併します。原因として、僧帽弁自体の変性や感染による変形、弁と左心室の壁をつなぐ腱索と呼ばれる凧の糸のようなものの断裂、左心室自体が心筋症や心筋梗塞後などで心拡大を起こし、弁の扉が引っぱられうまく閉まらなくなる病態(二次性僧帽弁逆流)もあります。弁の感染や腱索の断裂によるものでは、急性に発症することがあります。
一般的に「弁膜症の治療」に書いたとおりです。手術は外科的治療が一般的で、可能であれば自己弁をうまく使って弁を修復する僧帽弁形成術が行われますが、症例によって人工弁による僧帽弁置換術が行われます。原因によってはカテーテル手術も治療方法の一つとして現在研究段階ですが、施行できる施設は一部の特殊な施設に限られます。
僧帽弁の開きが悪くなり、うまく左心房から左心室に血液が流れない病気です。左心房に負担がかかり、心房細動と呼ばれる不整脈をよく合併します。原因は、ほとんどが幼少期にかかる可能性のあるリウマチ熱の後遺症による弁変性ですが、リウマチ熱の激減に伴い、新規患者数も激減しております。
一般的に「弁膜症の治療」に書いたとおりです。弁の変性の状態によって、カテーテルでの手術、外科手術(自己弁を切開して開くようにする交連切開術、または人工弁と置換する僧帽弁置換術)が選ばれます。
「日本循環器学会」のホームページのトップページから「一般向け疾患ページへ」をクリックされると、学会による各疾患の解説を読むことができますので、ご興味のある方はそちらもご参照ください。