心臓の筋肉に血液を送る動脈である冠動脈に動脈硬化が起こり、それより下流に血液不足(虚血)が生じたときに痛みを出す物質がでてきて胸痛を起こす疾患の総称です。大きく分けて狭心症と心筋梗塞に分かれます。
冠動脈が動脈硬化などによる狭窄で(閉塞していれば後述する心筋梗塞)一過性の心筋の虚血のために胸痛・胸部圧迫感などを起こす、虚血性心疾患の1つです。少し休むと(数分以内)治まってしまうのが特徴です。痛みはしばしば左肩・腕や顎までひろがり、みぞおちに胃の痛みのように感じられることもあります。動脈硬化(アテローム硬化)による冠動脈狭窄で起こる狭心症は、一般的には労作時(階段を上ったり早く歩いたりしたとき)に症状が出ます。一方、「冠攣縮性狭心症」といって、同じような症状が労作と関係なく安静時にでることがあります。これは「冠攣縮(れん縮=スパスム)」、つまり冠動脈が痙攣様に収縮してしまい、動脈硬化で細くなったのと同じような狭窄を一時的に作り出すために起こります(図1)。このような狭心症も日本人には多いと言われています。
図1 正常冠動脈と狭心症の病態(画像提供:トーアエイヨー社)
心筋に血液を運ぶ冠動脈に動脈硬化が起こり、そこでプラークと呼ばれる脂肪などの固まりが破れて血栓がつまり、冠動脈が閉塞してそこから下流の心筋が壊死する病態(図2)を言います。胸痛は原則20分以上続き、冷や汗が出るほどの場合が多いです。発症から約6時間で閉塞部位の心筋は完全に壊死してしまいますので、こうなるといくら後から閉塞部位をこじ開けて血流を再開しても心筋は死んでしまっているのでその部位の心筋は動きません。心筋梗塞の原因となっている冠動脈閉塞部位の治療(経皮的冠動脈形成術(PCI))は閉塞してから6時間以内に行うことが目安で、かつ早ければ早いほど効果があります。
図2 心筋梗塞(画像提供:トーアエイヨー社)
現在1日に7~8件の診断カテーテルと4件前後の経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行し大阪府下トップクラスの実績をあげています。診断カテーテルやPCIのほとんどは手首の動脈(橈骨動脈)より施行でき、術後軽度の安静のみで歩行可能となります。最近では、さらに負担の軽い遠位橈骨動脈からのカテーテルにも積極的に取り組んでおります。ロータブレーターやダイアモンドバック、エキシマレーザーのような最新治療機器を使用し、また血管内超音波(IVUS)の他、光干渉断層法(OCT)/光干渉断層診断(OFDI)、血管内視鏡などの最先端の診断機器を用い治療にあたっています。
原則的に診断カテーテルや待機的なPCI(救急時を除く)は2泊3日の入院となります。(1日目:午後から入院 2日目:診断カテーテルやPCI 3日目:午前に退院)
PCI(Percutaneous Coronary Intervention:経皮的冠動脈形成術)は冠動脈に対して行われるカテーテル治療の総称です。PTCA(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty)とも呼ばれます。カテーテルとは、直径数mm程度の軟らかい管で、このカテーテルを使用して、狭くなったり閉塞した冠動脈の治療を行います。バルーン(風船)で病変を拡げる治療(図1)をPOBA(Percutaneous Old Balloon Angioplasty)とも呼びますが、ステントと呼ばれる金属製の網状の筒を、閉じた状態でバルーンにかぶせて、病変部でバルーンを膨らませてステントを開かせ、留置してくる(図2)ことが主流となっています。バルーンはしぼませて回収しますので、最終的に冠動脈にはステントだけが残ります。POBAで終了するよりも、ステントを留置することで、ほぼ確実に冠動脈を拡げることができます。
ロータブレーターは施設基準があり限定した施設でしか使えません。当院では1997年より施行しており多くの臨床経験があります。高速回転冠動脈アテレクトミー(Rotational Coronary Atherectomy)の略で、小さなダイヤモンドの粒(20~30ミクロン)を前半分に装着した丸い金属(burr)(図3、銀色の部分がダイヤモンドの粒)を、カテーテルの先端に取り付けて非常に高速で回転させることによって、固い動脈硬化(石灰化)を削ることができます。動脈硬化が進むと血管は石のように硬くなる場合(石灰化)があり、バルーン(風船)療法だけでは拡張できなくなり、また無理やり金属の筒であるステントを入れても十分拡張できない場合があります。そのような場合、ロータブレーターで削ることでその後の治療成績は向上します。柔らかいものは削れにくいのが特徴で、血管を傷つけにくくなっています。
図3(画像提供:ボストンサイエンティフィック社)
ダイアモンドバックも施設基準があり限定した施設でしか使えません。2019年2月より保険償還され、当院では2019年より施行しております。カテーテルの先端から数mm後ろにダイヤモンドコーティングされたクラウンが付いており(図4)、それが高速軌道回転することで遠心力が発生し、固い動脈硬化(石灰化)を削ることができ、Orbital Atherectomyとも呼ばれます。クラウンが通過するごとに軌道の直径は増大して病変の内腔を拡張させ、またロータブレーターのように柔らかいものは削れにくくなっており、血管を傷つけにくくなっています。他にも、ロータブレーターは先端のburrが高速回転して前に進むときに石灰化を削るように出来ていますが、ダイアモンドバックは軌道回転で石灰化を削り、前進する際だけでなく、後退しながら削ることも可能という特徴があります。
図4(画像提供:メディキット社)
この治療は2001年に高度先進医療として認可され、一部の施設でのみ使用可能となっていました。2012年より保険償還されましたが特殊な装置の導入が必要であり限定した施設でしか使えません。当院では高度先進医療の時期より導入しており多くの経験があります。冠動脈に挿入されたカテーテルの先端から照射されるエキシマレーザーによって、動脈硬化(プラーク)の組織を蒸散させ、治療するものです(図5)。このエキシマレーザーは、冠動脈形成術において欧米ではすでに数万例以上の症例に適用され、通常の風船によるバルーン治療が困難な複雑病変に対する有効性も報告されています。また一部では難治性の下肢動脈硬化にも有効という報告もあり当院でも施行しております。
図5(画像提供:DVX社)
IVUS(Intravascular Ultrasound:血管内超音波)は、カテーテルの先端に超音波の探触子があり、経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行する際に、冠動脈の内部から動脈硬化(プラーク)の局在や血管の性状を評価するのに有用な検査です(図6)。
図6(画像提供:ボストンサイエンティフィック社)
OCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層法)/OFDI(Optical Frequency Domain Imaging:光干渉断層診断)は、血管内超音波検査(IVUS)と同様に経皮的冠動脈形成術(PCI)を施行する際に行う検査の1つで冠動脈内を詳細に評価出来る検査です(図7、図8)。OCT/OFDIはIVUSと比べて解像度が約10倍であり、IVUSの弱点である石灰化や血栓などの評価に優れています。
図7 OCTの装置(左)とOCTで見た冠動脈内(右)(画像提供:アボット社)
図8 OFDIの装置(左)とOFDIで見た冠動脈内(右)(画像提供:テルモ社)
冠動脈内をまるで胃カメラのごとく、観察・診断することができる最先端機器であり(図9、図10)冠動脈の状態やPCI治療の急性期、慢性期の結果の評価に有用との報告も多くみられます。当院でも治療評価に積極的に用い、冠動脈のみならず末梢動脈への治療の評価にも応用しています。
現在、当院では個々の病態に応じてこれらの治療機器、診断機器を使い分け、よりよいPCI治療へとつなげています。
図9 血管内視鏡装置(画像提供:OVALIS社)
図10 血管内視鏡での冠動脈画像(画像提供:インターテックメディカルズ社)
心臓の筋肉に血液を送る動脈を冠動脈と呼びます。そこに動脈硬化が起こると、プラークと呼ばれる脂肪の固まりが蓄積していきます。急性心筋梗塞はプラークが破裂を起こし、それに伴い血栓が形成され冠動脈が急性に閉塞し、それから下流の心筋が壊死する病態を言います。典型的な症状としては冷や汗が出るような胸部の痛みが突然起こり、原則的に20分以上続きます。閉塞部位の心筋は経時的に壊死が進行していき、壊死した心筋の機能は残念ながら元通りにはなりません。このため、閉塞してしまった冠動脈を可及的速やかに治療(経皮的冠動脈形成術:カテーテル治療)し、下流の心筋に再度血液を供給することが重要であり、治療は早ければ早いほど効果があります。
(画像提供:トーアエイヨー社)
当院は365日24時間体制で救急医療に取り組んでおり、急性心筋梗塞に関しては救急車到着後、急性心筋梗塞と診断された15分後には緊急カテーテル治療が開始できるような体制を整えています。
閉塞した冠動脈を再開通させるため、まずはカテーテルを用いた経皮的冠動脈形成術が必要となります。基本的には手首(橈骨動脈)や足の付け根の動脈(大腿動脈)より施行します。最近では多くの治療は橈骨動脈より行っていますが、重症のケースではより太いカテーテルを用いた治療が必要であり、また心臓を補助する機械の使用が必要となることがあるため、大腿動脈を用いた治療を行います。
(詳細に関しては虚血性心疾患の経皮的冠動脈形成術(PCI)の項を参照下さい。)
冠動脈形成術後、不整脈(心室性不整脈、房室ブロック)、心破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂といった急性心筋梗塞に関連する合併症を発症することがあります。いずれも致命的となりうる重篤な病態ですが、一定の確率で心筋梗塞後は起こる可能性があり、特に急性心筋梗塞発症後24時間以内に発生することが多いと報告されています。当院には心臓集中治療室(CCU)が6床あり、前述のような合併症の発生をモニタリングしつつ、急性期不安定な血行動態の管理や心不全の治療もしっかりと行える環境を整えています。
多くの場合では、冠動脈形成術後、治療前にあった胸痛などの症状は治まり、一見治ったかのように見えますが、前述のように急性心筋梗塞は心筋が一部壊死を起こしてしまう病態であり、発症後は心臓が元の生活に耐えられるよう段階を踏んで負荷をかけていく心臓リハビリテーションが必要となります。当院では可能な限り早期より、リハビリテーション科と共同で専門的な心臓リハビリテーションを開始し、退院までのプログラムを組み、退院までしっかりとしたリハビリテーションを行っています。
急性心筋梗塞は再発する可能性がある疾患です。高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・肥満などを改善することが再発を予防するために重要であることが報告されています。このため、当院では入院中にこれらの疾患の有無を確認し、必要であればそれらの治療も共に行い二次予防に努めています。また栄養士による栄養指導や看護師による生活指導にも力を入れ、多職種からなる循環器内科チーム一丸となり、二次予防にも取り組んでいます。
上記のような治療を行い、一般的に約2週間の入院治療を行っています。当院は365日24時間、カテーテル治療(経皮的冠動脈形成術)を始めとした治療が可能な体制を整えており、超急性期から慢性期のことまでを考えた治療を行っています。持続する胸痛を認めた際には、当院への受診をご検討下さい。