がん診療について

卵巣がん

Ovarian cancer

卵巣癌の組織型と治療

卵巣癌の治療として手術療法と化学療法が主に行われていますが、多くの場合手術療法に加え化学療法が必要になります。また、卵巣癌においても近年分子標的薬で保険適用になるものが出てきており、以前とは治療に変化がみられるようになっています。

卵巣がんには、主として4つの組織型があります。漿液性がん、類内膜がん、明細胞がん、粘液性がんの4つですが、前2者は抗がん剤がよく効き、後2 者は抗がん剤が効きにくく、使用される抗がん剤もこれらの組織型によって決定される場合が多くあります。 抗がん剤が効きにくいタイプでは、手術の機会に可能な限りの完全切除が必要となります。

漿液性がんは抗がん剤の最もよく効く卵巣がんの代表格ですが、通常使用される抗がん剤は、TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)です。この他には、TP療法(パクリタキセル+シスプラチン)、DP療法(ドセタキセル+シスプラチン)などがあります。類内膜がんにおいては、基本的には漿液性がんと変わりありませんが、アドリアマイシン系の抗がん剤レジメ(CAP療法、AP療法など)を重視する場合もあります。抗がん剤のよく効く組織型の卵巣がんでは、いずれの抗がん剤レジメも概ね良好な成績が期待できます。

2013年11月より、大腸がん、肺がん、乳がんの治療に用いられていたベバシズマブが卵巣癌にも使用可能となりました。細胞が増殖するためには豊富な栄養が必要であり、栄養を調達するために、新しい血管を作っています(血管新生)。ベバシズマブは、新しい血管を作るためにがん細胞が分泌する物質に結合して、血管新生を阻害し、がん細胞が増えるのを抑えます。 ベバシズマブは、これまで婦人科の領域で使用されてきた抗がん剤とは、作用の異なる薬剤です。卵巣がん領域で最も期待されている分子標的治療薬が実施可能となり、抗がん剤との併用、その後の維持療法として上乗せ効果が期待されています。ベバシズマブ特有の副作用としては高血圧、タンパク尿、消化管穿孔などが挙げられます。

再発卵巣がんについては、前治療で最後にプラチナ製剤(カルボプラチン)を使用してから病状が悪化するまでの期間により、次治療の選択が変わります。一般的にはプラチナフリー期間が6ヵ月未満であればカルボプラチンを使用しない治療を選択します。6ヵ月以上である場合はカルボプラチンを使用した治療を選択します。抗がん剤にベバシズマブを併用と維持療法に使うこともあります。

また2018年4月よりオラパリブが卵巣癌において使用可能となりました。オラパリブはプラチナ感受性再発卵巣がんに対し、カルボプラチンを含んだ抗がん剤を行い、治療効果が得られた卵巣がんに対し、その後もよい状態を維持するために用いる飲み薬です。オラパリブの服用は、抗がん剤治療が終わってから始めます。卵巣がん細胞では遺伝子(DNA)修復に関係する仕組みのひとつが働いていないことが多くありますが、残った一方の仕組みでDNAを修復することできれば、がん細胞は生き残ることができます。オラパリブは、DNAの修復の仕組みの1つを働かないようにする薬です。ただし正常な細胞では修復の仕組みが片方残るため、細胞は生存できます。オラパリブが、もともと片方しか修復の仕組みが働いていなかったような卵巣がん細胞に作用した場合には、DNA修復の仕組みが両方とも働かなくなるため、DNAの傷は修復されずに細胞死に至ります。オラパリブに頻度の高い副作用は吐きけ、貧血、疲労などで、まれに間質性肺疾患が現れることがあります。

問題は、抗がん剤の効果が期待しにくい、明細胞がん、粘液性がんです。特に明細胞がんは頻度的にも増加傾向にあるので、有力な抗がん剤レジメの確立が待望されています。これらの卵巣がんに対しては、漿液性がん、類内膜がんで使用されている抗がん剤以外に、カンプトテシン、マイトマイシン、ドセタキセルなどの組み合わせが使用されています。